ニューズレター
パロディ商標のフェアユース
ユーモア、風刺、批判などの娯楽性を有する「パロディ」(parody)は、商標のフェアユース(公正使用、合理使用)の形態の1つに該当するかどうかについて、台湾では、言論の自由、表現の自由及び芸術表現の自由の尊重に基づいて商標権の効力を合理的に制限する肯定的な見解を採用した判決がある。しかし、商標権侵害にならない商標のフェアユースに該当するかどうかは、個別具体的な事案に応じて判断しなければならない。台湾台北地方裁判所113年(西暦2024年)度智易字第9号刑事判決(判決日:2024年8月21日)は、パロディが商標権のフェアユースを主張する要件を明らかにし、さらに、係争商品にユーモラスな意味合いがあっても、必ずしもパロディのフェアユースに該当するとは限らないと明らかにした。
一、商標法は、パロディのフェアユースについて明確に規定していない
商標法第36条第1項は、商標のフェアユースについて、記述的フェアユース、指示的フェアユース、機能的使用、善意による先使用という4つの形態を規定しているが、同法には、著作権法第65条第2項のような一般的包括的フェアユース規定はない。このことから、台湾の裁判実務では、パロディが商標権のフェアユースの形態の1つとして認められているにもかかわらず、商標法はこれまでパロディのフェアユースについて明確な規定を設けていないことが分かる。
二、本判決
(一) 本件被告らは、国際的に著名なアパレルブランドの登録商標(以下、総称して「係争商標」という)に類似する商標図案を、それを知らなかった会社の従業員に、当該商標図案を衣料品に印刷し、ECプラットフォームShopee(ショッピー)のオークションサイトにショップを開設して販売するよう指示した。本件は、台湾台北地方裁判所113年(西暦2024年)度智易字第9号刑事判決により被告らの商標法第95条第3号違反の商標権侵害罪で有罪判決が下され、押収された衣料品は没収された。
(二) 本判決は、以下の事由に基づき、パロディを商標のフェアユースとして主張できることを明らかにしている
1.商標の使用に該当しない
行為者が他人の商標を使用する目的が、冗談やユーモアの意味合いや論点を表現するだけであり、他人の商標を自己の商品又は役務の出所を表示する標識とするのではなく、すなわち、商取引の過程で使用するものではない。例えば、特定の公益目的実現のために他人の商標の表示機能を利用し、批判や抗議などの特定の要求を比例的に表現する。
2.商標使用に該当するフェアユース
商取引の過程において、冗談やユーモアの意味合いを表現し、自己の商品や役務の出所を表示する標識として他人の商標を使用することは、商慣行に合致した信義誠実原則に従い、商標権者の商品又は役務とは何の関係もないメッセージを、関連消費者が一目見て分かる程度に、関連消費者に混同誤認を引き起こすおそれがないように明確に伝えなければならない。
(三) 本判決は、被告らによるパロディのフェアユースの抗弁を認めなかった
1.押収された衣料品上の商標図案は、たとえユーモラスな特徴を有していても、当該商品が商標権者の商品と何の関係もない説明的文字や図案が示されていない。被告らは、関連消費者が一目見て分かる方法で、関連消費者が押収商品と商標権者の商品とを明確に区別できるようなメッセージを明確に伝えていなかった。
2.被告らの社内LINEのグループトーク履歴は、係争商標の「ブランド」を商品分類の根拠としており、被告らは、係争商標ブランドと類似したユーモラスな意味合いの商標図案を使用することにより、消費者の関心を集め、商標権者が長年商標ブランドを運営することによる波及効果を利用して販売を刺激し、係争商標の知名度にただ乗り(フリーライド)することを意図していることが明らかになった。
三、台湾の裁判実務におけるパロディのフェアユース
(一)台湾の裁判実務において、「商標のパロディ」がフェアユースに該当するか否かの判断について、商標権が商標権者の利益と消費者の混同誤認を避ける公共利益に関わることをよく強調している。「商標のパロディ」が許容するためには、著名商標を模倣した商標はユーモア、風刺、批判などの娯楽性を有し、同時に2つの矛盾したメッセージを伝える必要があり、かつ、「消費者の混同誤認を避けるという公益」と「表現の自由という公益」をバランスよく考慮する必要がある。(知的財産及び商業裁判所107年(西暦2018年)度民商訴字第1号民事判決、知的財産裁判所103年(西暦2014年)度刑智上易字第63号刑事判決を参照)
(二) 知的財産及び商業裁判所111年(西暦2022年)度民商訴字第35号民事判決はさらに、パロディをフェアユースとして主張するための要件を指摘している
1.ユーモア、風刺、批判の娯楽性を有し、同時に2つの矛盾したメッセージを伝えること
2.消費者がパロディ商標を見ると、すぐに者が両者を明確に区別でき、関連混同誤認を引き起こすおそれがないこと
4.言論の自由の下で厳格な審査を受ける商標は、たとえ商標権を犠牲にするとしても、表現の自由という公益を保護する必要性があること
5.著名商標を不当に使用したり、著名商標の識別性又は信用を減損したりするおそれがないこと
(三)パロディがユーモラスな意味合いを有するかどうかについて、知的財産及び商業裁判所108年(西暦2019年)度民商上字第5号民事判決は、ユーモラスや冗談はその国の言語、文化、社会背景、生活経験、歴史などの要素と密接な関係があるため、「台湾の消費者」がそのユーモラスな意味合いを理解できるかどうかで判断する必要があると強調している。商標図案が関連消費者に混同誤認を引き起こすおそれがあるかどうかは、多くの場合、関連消費者が商標図案を見た瞬間にすぐに反応し、つまり、あまり推理や推論をせずに、その他の商品や役務の出所と同一又は関連のある印象を与えるか否によって決まる。同判決では「MyOtherBag…」というジョークは、アメリカ人がよく安価な車やは古い車のバンパーに「MyOtherCar…」(私のもう一台の車はメルセデス・ベンツやその他の高級車)のステッカーを貼り付けているという古典的なジョークから由来するものであるが、台湾の関連消費者にとっては、面白くて愉快な笑いを生み出すことは難しいと判断した。
(四)注目すべきは、台湾の実務上、パロディは商標権のフェアユースを主張できることを認めているが、台湾ではこれまでまだパロディのフェアユースの主張に成功した事例がないことである。このことから、裁判実務は、パロディのフェアユースの抗弁に対して比較的保守的なスタンスをとっているようであり、商標権者及び著名商標を第三者による搾取やフリーライドから保護する傾向があることが分かり、今後の実務動向に注視する必要がある。
四、まとめ
以上をまとめると、台湾の裁判実務は、パロディのフェアユースに対して比較的厳格な判断基準を採っている。台湾台北地方裁判所113年(西暦2024年)度智易字第9号刑事判決は、パロディはユーモア、風刺、批判の娯楽性を有するだけでなく、台湾の消費者が一目見て明確に区別できる程度に達していなければ、商標権のフェアユースによる保護を受けると主張できないことを明らかにしている。他人の商標をユーモア、風刺、批判などの娯楽効果の方法で他人の商標を改変する前に、法律違反を避けるために商標権侵害のリスクの発生可能性を慎重に評価する必要がある。