ニューズレター
知的財産民事訴訟事件の第一審の管轄—「優先管轄」から「専属管轄」へ
一、前言
知的財産民事訴訟事件の第一審の管轄については、従来、知的財産案件審理法(中国語:智慧財產案件審理法、以下「知財審理法」という)の規定に基づいて知的財産及び商業裁判所(旧知的財産裁判所、以下「IPCC」という)が「優先管轄」としていたが、今年、知財審理法が改正され「専属管轄」に変更された(2023年1月12日に立法院(国会に相当)で可決、2月15日に総統が公布、8月30日に施行)。「優先管轄」と「専属管轄」の法的効果はどういったものなのか。両者にはどのような違いがあるのだろうか。これについては、法改正の過渡期に出された最近の台湾高等裁判所高雄分院112年度抗更一字第10号民事決定を通して考えてみる。
二、改正知財審理法における「専属管轄」の採用
改正知財審理法第9条第1項では、「知的財産及び商業裁判所組織法(中国語:智慧財產及商業法院組織法)第3条第1号、第4号に規定する第一審民事事件は、IPCCの専属管轄とし、訴えの追加その他の変更による影響を受けない。ただし、民事訴訟法第24条、第25条に規定する事情があるとき、当該裁判所も管轄権を有する。」と規定している。これがいわゆる「専属管轄」の規定であり、すなわち「知的財産民事事件の第一審は、合意管轄又は応訴管轄の場合を除き、IPCCの専属管轄とする」。立法者は「知的財産民事事件の審理には技術的・法律的専門性が求められることを考慮し、裁判の専門化の目的を実現し、訴訟手続の安定性を維持するため」を立法理由に挙げ、知的財産民事事件の第一審をIPCCが専属管轄することを規定した。
改正前に採用していた「優先管轄」(関連規定:改正前知財審理法第7条はIPCCが第一審の管轄権を有すると規定し、改正前知的財産案件審理細則(中国語:智慧財產案件審理細則、以下「知財審理細則」という)第9条はさらに「知的財産民事、行政訴訟事件は知的財産及び商業裁判所の専属管轄ではなく、その他の民事、行政裁判所が、実際には知的財産民事、行政訴訟事件に属すはずの案件について実体裁判を行った場合、上級裁判所は管轄の誤りを理由に原判決を破棄してはならない」と規定していた。)は通常裁判所が事件を審理することを排除する法的効果を有するかどうか、すなわち、当事者が通常裁判所に訴訟を提起した場合、通常裁判所はIPCCの優先管轄を理由に、職権でIPCCに事件を移送する決定を下すことができるのか。これについて、実務上の見解が分かれている。これに対し、改正後に採用された「専属管轄」は、知的財産民事事件の第一審がIPCCと他の通常裁判所で取り扱われる状況をより明確に区分するものである。
三、法改正の過渡期における台湾高等裁判所高雄分院112年度抗更一字第10号決定
本件では、原告は、被告が自社の商標権と著作権を侵害していると主張し、台湾橋頭地方裁判所に民事訴訟を提起したところ、同裁判所は2023年5月22日、112年度審智字第1号民事決定を下し、IPCCが「優先して管轄すべき」と判断したため、地方裁判所は「管轄権無し」として、本件をIPCCに移送した。その後、本件は、抗告と再抗告の手続を経て、最終的に差戻審は台湾高等裁判所高雄分院に係属した。同分院は、2023年10月31日、112年度抗更一字第10号民事決定を下した当時、上記の改正知財審理法はすでに施行されていたため、同決定は、特に知財審理法改正の理由を明確に引用していないにもかかわらず、知財審理法改正の趣旨及び審理の専門化の傾向を考慮していることは明らかである。同決定は、本件には合意管轄も応訴管轄も適用されず、IPCCが優先管轄を有するべきであるとする第一審地裁の理由を支持した。
四、結び
「優先管轄」と「専属管轄」の程度には依然として違いはあるが、上記の台湾高裁高雄分院112年度抗更一字第10号民事決定から、法改正の過渡期における知的財産民事訴訟事件の第一審の管轄について、「優先管轄」が適用されるとしても(改正知財審理法第75条第1項前段は、知的財産に係る第一審民事事件が2023年8月30日以降に裁判所に係属する場合は、改正知財審理法第9条第1項により、IPCCの「専属管轄」とし、2023年8月30日以前に裁判所に係属していた場合は、改正前の知財審理法第7条、改訂前の知財審理細則第9条により、IPCCの「優先管轄」とすると規定している。)、改正の趣旨に影響される可能性があり、「裁判の専門化の目的」の実現に向けて、IPCCの管轄権を認める傾向が強くなることが予測される。