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ベンツ対台湾帝宝(Depo)意匠権侵害事件最高裁判決


簡秀如/Frank Lee

2023104日、最高裁判所は、独Mercedes-Benz Group AG(旧社名:Daimler AG、以下「ベンツ社」という)が台湾帝宝工業株式会社(DEPO Auto Parts Ind. Co., Ltd. 、以下「Depo社」という)を被告として意匠権侵害訴訟を提起した事件について、知的財産及び商業裁判所(旧知的財産裁判所、以下「IPCC」という)の第二審判決(108年度民専上字第43号判決)に法令違反があるとして原判決を破棄し、本件をIPCCに差し戻す旨の第三審判決(112年度台上字第9号判決)を言い渡したDepo社がアフターマーケットの車両用ランプの世界的トップメーカーであり、ベンツ社が世界的に有名な自動車ブランド及びメーカーであることから、この事件は大きな注目を集めている
 
一、背景事実及び裁判経過
 
ベンツ社は、台湾第D128047号「車両用ヘッドライト」(以下「係争意匠」という)の意匠権者であり、ベンツEクラスのW212型(以下「係争車両」という)には、係争意匠に係るヘッドランプ搭載されている。一方、Depo社は、係争車両に適用するヘッドランプ(以下「係争製品」という)を製造・販売している。その結果、ベンツ社は、Depo社に対し、係争製品の製造・販売の行為について、意匠権侵害の民事訴訟をIPCCに提起した。2019816日、IPCCはベンツ社に有利な一審判決(106年度民専訴字第34号)を下し、Depo社に対して、ベンツ社への3,000万台湾ドル(約14, 300万円)の賠償金の支払いと係争製品の製造・販売の差し止めを命じる判決を下した。両当事者の控訴に対し、IPCC2022714日に二審判決を言い渡したが、その理由は概ね一審判決と同様であり、両判決とも、係争意匠は有効であり、意匠権の侵害が成立するとしている両判決の主な違いは、懲罰的損害賠償の算定にある。一審判決は、Depo社が損害賠償額の算定に必要な売上原価及び必要経費を立証しなかったため、懲罰的損害賠償額を販売総額の1.295倍程度である3,000万台湾ドル(約14, 300万円)と認めたが、二審判決は、売上原価及び必要経費を認めたため、懲罰的損害賠償額は、販売総額から当該費用及び経費を控除した額の1.5倍である1,8123,279台湾ドル(約8,675万円)に減額した。
 
二、最高裁判決の要旨
 
裁判所が裁判の基礎として採用する証拠については、当事者に攻撃防御方法を尽くさせるため、証拠やその調査結果について口頭弁論の機会を与えなければならない。この手続きが踏まれずこの証拠調べの結果が裁判の基礎とされた場合、その判決は法的に瑕疵(不備)のあるものとなる。また、受命裁判官は、証拠調べの方法の1つである検証を行い、その調査結果を裁判所書記官が調書に記録しなければならない。調書に添付された写真は、調書の一部であり、調書と同一の効力を有する。これは民事訴訟法第294条第1項、第366条、第215条の規定から明らかである。
 
原審受命裁判官は、Depo社が1審で提出した係争製品1と原審(控訴審)で提出した係争製品2について検証を行い、その調書には、「裁判官は……法廷で検証を行い、写真を撮影し、その調書添付し、その写真を両当事者に提供した」としか記録されていない。しかし、調書と添付写真を見る限り、検証の過程と結果についての記録はないようであり、原判決における「当裁判所が法廷で係争製品の写真を検証した結果、その正面図には2つの目(中国語:雙瞳)の視覚的効果がなかった」という記録ない。さらに、口頭弁論期日においても、裁判所はこの証拠調べの結果について当事者に弁論を命じたことなかった。原審は、これを裁判の基礎としており、その判決は法的に瑕疵のあるものとなる
 
また、「2つの目」の視覚的印象を与えるヘッドライトは、一般消費者の注意を引きやすく、視覚的効果に顕著な影響を与える部位又は特徴であり、係争製品と係争意匠の全体の外観が同一又は類似であるかどうかを判断する重要なポイントである。原審は、係争意匠には、視覚的に目立つ丸型電球が1つしかなく、消費者に「1つの目(中国語:單瞳)」の視覚的印象を与えるのに対し、係争製品は電球が2つあり、内部は円筒形の構造になっているという事実を認定した。Depo社は、係争製品はいずれも2つの目」の視覚効果を与えており、係争意匠の外観と同一又は類似していないため、侵害を構成しない旨抗弁しさらに2つの目の視覚効果を与える係争製品の正面図の写真を証拠として提出した。このような主張が全く採用できないかどうかについては、まだ検討の余地がある。しかし、原審は、この写真の真正性を確かめることも、当事者に立証するよう命じることもしなかった。上記の写真は確かめられずレタッチなどの加工が施されたものと推測しているだけでDepo社の主張を拒否し、係争製品はいずれも1つの目」の視覚的印象を与えると認定し、Depo社に不利な判決を下したことは、あまりにも軽卒な速断である。
 

最高裁は、前記の判決を踏まえ、調書に法廷での検証と写真撮影のみが記載されている場合、たとえ写真が調書に添付されいたとしても、検証結果を調書に記録すべきという民事訴訟法の要件を満たさず、さらに裁判官が検証物を五官(感)の作用によって認識(感得)した性状(例えば、二審判決における「正面図には2つの目の視覚効果はない」との記載)を調書に記録する必要があるとした。また、裁判所は、調書に記録された検証結果について判決を出す前に当事者に弁論を命じなければならない。さらに、たとえ裁判所が検証を行ったとはいえ、当事者が当該検証物の写真を追加で提出した場合、その内容が真実でないと判断しても、裁判所は調査し、当事者に立証を命じなければならない。今回の最高裁判決は、あくまでも二審判決の審理手続上の瑕疵を指摘したに過ぎないため、IPCCに差し戻された後も、係争意匠の権利侵害成立という同様の結論が維持されるか否かは、引き続き注目に値するものである。 

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