ニューズレター
「Rule of Dedication(Dedicationの法理)」に関する考察(2)
前号に述べられたように、台湾及び米国において、「特許請求の範囲が開示内容に見合ったものでない」ことが、「Rule of Dedication(Dedicationの法理)」が適用される可能性がある状況に鑑み、本号では、特許出願人又は特許権者の立場から、上記の見合わない場合に対象するいくつかの方法と、より早い段階での予防策について整理する。
特許請求の範囲が開示内容に見合ったものでない場合の対処方法
特許出願人又は特許権者は、特許明細書の開示の一部がクレームされていない(特許請求の範囲に含まれていない)ことを発見した場合、適宜、以下の方法をとることができる。
1. 「台湾と米国」出願(親出願)がまだ特許主務官庁に係属中の場合
特許の場合、出願人は、分割出願[1]又は継続出願[2](子出願)をすることにより、親出願の明細書に明確に開示されているが、親出願でクレームされていない内容を子出願でクレームし、子出願の特許請求の範囲について特許主務官庁に実体審査を請求することができる。損害賠償請求権は、特許請求の範囲は特許査定され公告されたのみ行使することができ、原則として母出願と子出願の特許の存続期間は同時に満了するため[3]、子出願の特許請求の範囲が特許査定された後に前記権利を行使できる期間は比較的限られていることに留意すべきである。
2. 「米国」特許出願(先願)の特許証が発行された場合
特許の場合、親出願が特許主務官庁に係属中でなくなった場合、上記1の方法で「同時に特許主務官庁に係属する」という子出願をして処理することはできない。特許権者は、以下の2つの方法をとることができる。
A. 「先願」の公開日から1年以内に別個独立した「後願」を出願すること
「新規性喪失の例外」に関する現行米国特許法(35 U.S.C.)第102条(b)(1)(A)は、同一発明者によるいかなる形式の早期公開も、当該公開日から1年以内に出願された独立した後願に対して適格性のある従来技術とはならないという例外を規定している。このような規定は、グレースピリオド(猶予期間)とも呼ばれている。したがって、上記期間を満たしている場合、特許権者は、先願の明細書に開示された内容で、クレームされていないものを保護するために、猶予期間中に別個独立した後願を出願することができる。前号で取り上げたIn re Gibbs事件において、裁判所は、「後願」において出願人が行ったクレームは、「先願」において明確に開示されたがクレームされなかった内容を公衆に捧げる意図がないことを明確に示したものであり、「先願」が特許法上の適格性のある従来技術でない場合、「先願」の明細書で開示された内容のうち、別個独立した後願によってクレームされていない内容を保護することは適切な手段であると述べている。特許権者は、この点について米国弁護士に相談することができる。
B. 特許主務官庁への再発行出願(拡大再発行出願の場合、特許発行後2年以内)
猶予期間の徒過により上記Aの方法で対応できない場合、特許権者は、事案の状況に応じて、再発行出願の可能性があるかどうかを米国弁護士に相談することができる。再発行出願の前提条件は、特許権者が最初に発行された特許に「誤り」[4]があると考えることであり、米国特許審査便覧(MPEP:Manual of Patent Examining Procedure)は「誤り」の例の1つとして「特許請求の範囲が広すぎるか狭すぎる」ことを挙げている。再発行出願の特許請求範囲に含まれる技術的特徴は、出願人が特許査定を得るために審査過程で放棄又は補正したものであってはならず、また、特許権者が再発行の権利を行使する場合、被疑侵害者は抗弁として介在権[5](intervening rights)を主張することができることに留意すべきである。
3. 「台湾」特許出願(先願)の特許証が発行された場合
特許の場合、特許出願の早期公開の有無にかかわらず、特許証の発行日がすでに特許公報に公告されているため、現行特許法第22条第3項及び第4項[6]の規定により、先願の開示内容が猶予期間の適用を受けることができず、当該内容は後願の特許請求の範囲に対して適格性のある従来技術となるため、先願の特許明細書に開示されたが請求されていない内容を、別個独立した後願で請求することはできない。未請求の内容を訂正により特許請求の範囲に含めたい場合は、「訂正前の発明の目的を達成する」と「公告時の特許請求の範囲を実質的に拡大又は変更してはならない」との要件が同時に満たされているかどうかを、個別案件の情況に応じて判断する必要がある。詳しくは、前号の内容を参照してください。
結論
特許権者は通常、権利行使時になって初めて特許請求の範囲が開示内容に見合わないことを発見するが、この時点では、法律や規則で規定された期間がすでに過ぎているため、先に述べた対処方法の多くがもはや適用できなくなる。したがって、出願人又は特許権者は、グローバル特許ポートフォリオを構築する際、「Rule of Dedication」の適用を回避するために、以下のベストプラクティス(best practice)を早期に検討することを勧る。
1. 特許査定通知を受領した時点で、分割出願や継続出願の必要性を慎重に検討する。
特許請求の範囲は、通常、特許査定通知を受領した時点で確定され、特許証の発行日まで若干の処理時間があるため、この間に、親子出願が共同で特許主務官庁に係属するようにし、まもなく特許証が発行される特許請求の範囲が特許明細書の開示内容に見合うかどうかを総合的に検討することが可能である。審査過程で審査官が特定した従来技術に基づき、弁理士は、既存技術に寄与するが、特許請求の範囲に含まれない技術的解決策や特徴があるかどうかを、より的を絞って検討することができる。分割出願(例えば、台湾出願の単一性欠如による請求項の取下げ、米国出願の制限要件による請求項の取下げ又は削除)に加え、弁理士及び出願人は、特許明細書に開示された内容のうち、既存技術に寄与するものの、親出願の特許請求の範囲に含まれない内容があるか否かをさらに検討し、当該処理期間中に共同で係属する子出願を行うことで保護を求めるべきである。
2. 発明者との技術面談では、特許請求の範囲を計画するだけでなく、明細書の適切な開示範囲についても話し合う必要がある
発明者は、技術開発に精通しており、最初に提供した開示範囲が豊富すぎて、発明の「課題と解決手段」の文脈(以下「発明の文脈」という)から逸脱した内容になっている可能性がある。これらの発明の文脈に属さない部分については、早い段階でより包括的な保護を得るために、独立した特許請求の範囲及びそれに対応する明細書の開示を計画し、別個独立の出願を行う価値があるか否かについて、発明者と協議することが望ましい。前号の前言で、特許明細書の開示は、特許請求の範囲の理解を助けるものであり、特許請求の範囲が決まれば、特許明細書の内容は特許請求の範囲を裏付けるものでなければならず、その開示の程度は少なくとも各国の特許法に規定されたしきい値を超える必要があると説明した。しかし、このしきい値の具体的な境界はどこにあるのだろうか。将来、開示のしきいを超えたときにRule of Dedicationが発動され適用されるリスクを減らすにはどうすればよいのか。それには、経験豊富な明細書作成者が、発明者及び/又は企業の法務担当者と、技術的側面や製品の方向性について詳しく話し合い、明細書作成の早い段階で合理的な計画を立てる必要がある。
[1]現行台湾専利法第34条、35 U.S.C.121
[2]35 U.S.C.120、35 U.S.C.365(c)
[3]米国特許出願の場合、子出願に特許期間調整(PTA :Patent Term Adjustment)の適用により、特許存続期間が延長されたかどうかに注意すべきである。延長がある場合、子出願の特許期間は親出願と同日に満了しない。
[4]米国特許審査便覧(M.P.E.P.)§ 1401
[5]35 U.S.C. 252
[6]現行台湾専利法第22条第3項:出願人の本意により又は本意に反して公開され事実があり、当該公開の事実が発生してから12ヶ月以内に出願した場合、当該事実は第1項各号又は前項にいう特許を受けることができない事由に該当しないものとする。同法第22条第4項:特許出願によって台湾又は外国で法により公報に公開されたことが出願人の本意によるものである場合、前項の規定は適用されない。