ニューズレター
改正知的財産事件審理法における「専門家」の役割
2023年8月30日に施行された改正「知的財産事件審理法」(中国語「智慧財産案件審理法」、以下「知財審理法」という)では、知的財産にかかわる民事訴訟における「専門家」の役割について、新たに2つの制度が導入される。1つは、日本特許法の規定を参考にした「査証人制度」の導入であり、もう1つは、商業事件審理法(以下「商審法」という)の規定を準用し、「専門家証人」制度を正式に知的財産にかかわる民事訴訟手続に取り入れることである。
現在の実務によると、知的財産・商業裁判所(以下「IPCC」という)は、知的財産民事訴訟、特に専利権(専利:特許、実用新案、意匠を含む)侵害民事訴訟を取り扱う際、当事者の申立てにより、専門機関や専門家を選任して訴訟に参加させることが多く、係争侵害製品に関するテスト・分析を行ったり、関連する法律上又は技術上の争点について専門的知見を提供したり、さらには被告の敷地・建物に立ち入り財務情報を収集・調査した上で、損害賠償額の算定について助言を提供することもある。また、当事者自身が提出した専門家の意見書を証拠として援用する判決もよく見受けられる。現行の民事訴訟法では、「人」に関する証拠方法は、「証人」、「鑑定人」、「鑑定証人」のみである。このような状況下で、前述の様々な形態の専門家の訴訟参加に関する法的性質やそれらの相違点と類似点について、IPCCの過去の裁判実務において一致した見解は見受けられないようである。今回改正された知財審理法では、訴訟における「専門家」のさまざまな機能と任務に基づいて明確な規定が設けられている。
査証人
知財審理法第19条は、「専利権侵害事件において、裁判所は、立証すべき事実の真偽を判断するため、当事者の申立てにより、相手当事者又は第三者が所持する書類又は装置設備の査証を実施する査証人を選任することができる」と規定している。立法理由によると、査証制度は、証拠が被疑侵害者又は第三者の所持又は管理下にあることが多く、専利権者が当該証拠にアクセスすることが困難であるという問題(すなわち「証拠バイアス」)を解決するために考案されたものである。裁判所は、査証の申立てを認めるか否かを判断する際、申立人が「専利権が侵害され又は侵害されるおそれがあると疑うに足りる相当の理由があること」(すなわち「蓋然性」)、「自ら又は他の手段によっては、証拠の収集を行うことができない理由」(すなわち「補充性」)、「査証を実施する事項又は方法の必要性」(すなわち「必要性」)を釈明したかどうかを考慮し、及び「査証の実施に要すべき時間、費用又は査証を受ける者の負担が明らかに不相当であるか」(すなわち「相当性」)の要件を斟酌した上で、適切な査証人を選任するものとし、当事者の意見に拘束されることはない。
査証の実施について、知財審理法第22条は、査証人は「査証対象物の所在地に立ち入り、裁判所が認めた方法により書類又は装置設備に対して査証を実施することができるほか、査証を受ける者を尋問し、又は査証を受ける者に査証に必要な書類の提出を求めることもできる」と規定している。査証を受ける当事者又は第三者が正当な理由なく査証の実施を拒絶又は妨害した場合、裁判所は、前者の場合、事情を酌量して申立人の主張する査証により立証されるべき事実が真実であると認めることができ、後者の場合、裁判所は、台湾ドル10万元以下の過料に処することもできる。
査証人が査証報告書を提出した後、知財審理法第25条の立法説明によると、査証申立人は、当該査証報告書を書証(証拠方法)として、訴訟手続において提出する必要がある。知財審理法には、当事者が査証人を法廷に召喚して意見を述べたり、尋問を行うよう申し立てることができるかどうかについての規定はない。
専門家証人
知財審理法第28条は、査証人に関する商審法の規定を知的財産民事事件に準用すると規定している。商審法の設計によれば、当事者は裁判所の許可を得て専門家証人を申し立てた後(商審法第47条)、当該専門家証人は原則として書面で専門家意見を提出しなければならず(商審法第49条)、当事者はその意見を受けた後、裁判所の指定期間内に、書面で相手方の専門家証人に対して尋問することができ、裁判所は、職権で、又は申立てにより、専門家証人に出廷して意見を述べるよう通知することができる(商審法第50条)。また、専門家証人は、裁判長の許可を得て、尋問当日に他の専門家証人又は鑑定人に尋問することができる(商審法第52条)。さらに、裁判所は必要と認めるときは、期間を定めて当事者双方が申し立てた専門家証人に対し、争点その他必要な事項について討論し、共同で書面による専門的意見を提出するよう命じることができる(商審法第51条)。