ニューズレター
最高行政裁判所110年(西暦2021年)度上字第597号判決は、特許進歩性の判断に専門家証人の取調べ、補助的判断要素の考慮が必要と判示
専利法(台湾の専利法は、日本の特許法、実用新案法、意匠法を含む。)第22条第2項「発明が…それが属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という)が出願前の従来技術に基づいて容易に完成できるときは、特許を受けることができない」から明らかなように、特許の進歩性判断のポイントは、当業者が出願前の従来技術に基づいて容易に発明を完成できるか否かの判断である。特許出願時の当業者の技術水準の確立・調査については、実務上、特許権者が裁判所に専門家証人の取調べを請求したり希望したりしても認められない場合がある。
これについて、最高行政裁判所は、110年(西暦2021年)度上字第597号判決(判決日:2022年10月13日)において、原判決が専門家証人の取調べもせず、その理由も述べないまま、特許権者に不利な判断を下したものであり、原審は、職権証拠調べをを怠り、理由不備の違法があると述べた。その判決内容は以下のとおりである。
「上告人は、原審において、以下の主張を繰り返した。係争特許の進歩性の有無について、裁判所が的確な判断を下すためには、20年以上前の当業者の技術に対する認識を把握する必要がある。係争特許は、20年以上前の奥深くてマイナーな技術に関わるものであるため、現在の技術担当者には極めてなじみが薄く難しいものである。当時の技術に対する認識レベルを復元するためにも、20年以上前に既にこの分野に携わっていた評判の高い技術的専門家証人を法廷に招き、証言してもらうことを望む。…、また、上告人と参加人は、民事侵害訴訟において係争特許の有効性についても争っていたため、上告人は、原審において、民事訴訟における主張や立証を引用する旨を述べていた…原審訴訟書類に添付されている2019年2月25日の準備手続調書によると、上告人は、係争特許出願時の当業者の技術水準を証明するために盧維藩氏の証人尋問を請求した…。上記規定及び説明の趣旨によれば、上告人のこの主張は、係争特許の進歩性判断に関するものであり、裁判所は、これを取り調べて明らかにすべきである。しかし、原判決が何ら取調べもせず、その主張が採用できない理由も述べないまま、上告人に不利な判断を下した。よって、原審は、職権証拠調を怠り、理由不備の違法がある。」
また、同裁判所は判決においても、原判決が補助的判断要素(secondary considerations)に関する特許権者の証拠や主張について何ら取り調べることなく、特許権者に不利な判断を下したことも違法であると明確に指摘した。その判決内容は以下のとおりである。
「上告人は、原審において、以下の主張を繰り返した。係争特許は20年以上前に英、米、中、日で登録された。台湾の音声IC業界で、係争特許の内容を検討してライセンス契約を締結したのは、...などの上場会社を含めて、特許特許技術を搭載した数十億ものICを輸出していることから、係争特許が長年存在してきた課題を解決し、商業上の成功を収めたと判断するには十分である。以上の説明と一般的な論理や経験によると、上告人の上記の主張は全く根拠のないものではなく、しかも係争特許の進歩性判断に影響を与えるものであると思われる。上告人が主張した補助的判断要素は…発明が予期せぬ効果を奏したこと、発明が長年存在してきた課題を解決したこと、発明が技術的偏見を克服したこと、発明が商業上の成功を収めたことなどを含む…20年以上前の技術常識を理解してから初めて的確に判断できる。原審が十分な取調べをしないまま、係争特許の補助的判断要素の存在を否定し、上告人に不利な判断を下したことは、理論法則や経験則に反するだけでなく、職権証拠調べを怠った違法もあるものというほかない。」
最高行政裁判所のこの件の判決に係る特許は、最高裁判所111年(西暦2022年)度台上字第186号判決に係る特許と同じものである。後者の判決において、最高裁は、特許の進歩性の判断について、原審は、特許出願時の技術水準を理解するために、特許権者が請求した専門家証人を取り調べ、進歩性を判断すべきであり、同様に、補助的判断要素に関する特許権者の証拠や主張も斟酌すべきであるとした。しかし、上記2つの判決が、特許無効行政訴訟や特許権侵害民事訴訟において、特許の有効性に関する裁判所の判断に変革をもたらすか否かは、今後注目に値するものである。