ニューズレター
商標権侵害における損害賠償額の算定-「押収した商標権侵害品」の数は、OEMメーカーに実際に製造を委託した商品の数に基づいて算定すべき
一、前言
商標法第71条第1項は、「商標権者が損害賠償を請求するとき、次に掲げる各号のいずれかの方法により、その損害を算定することができる。一、民法第216条の規定による。ただし、その損害を立証するための証拠方法を提供できないとき、商標権者は、その登録商標の使用により通常得られる利益から、侵害を受けた後に同一商標の使用により得た利益を差し引き、その差額を被った損害とすることができる。二、商標権の侵害行為により得た利益による。商標権侵害者がそのコスト又は必要経費について立証できないときは、当該商品の販売により得た収入の全部をその所得利益とする。三、押収した商標権侵害に係る商品の小売単価の1500倍以下の金額。ただし、 押収した商品が1500個を超えるときは、その総額を賠償額とする。四、商標権者がその商標権について他人に使用を許諾して受け取る使用料に相当する額をその損害とする。」と規定している。同条第2項はさらに、「前項の賠償金額が明らかに相当しないときは、裁判所はこれを斟酌して減額することができる。」と規定している。
商標法第71条第1項第3号に規定する損害賠償額の算定方法は「法定賠償額」という概念を有する。2011年5月31日に商標法が全面改正され、同法第71条第1項第3号の改正趣旨に鑑み、同条は、改正前の法定賠償額の倍率の「500倍」という下限を削除し、実際の侵害程度が軽微であるにもかかわらず、損害賠償額を小売単価の500倍で算定することを回避するため、侵害行為の事実に基づく損害賠償額の判断を事案ごとに裁判官に委ねることとしたものである。しかし、押収した商品が1500個を超える場合、同号の後段では、損害賠償額の算定が低すぎて商標権者に明らかに不公平となることを避けるため、依然として押収し商品の総額に基づいて損害賠償額を算定することを規定している。
「押収した商標権侵害品」の数の算定方法について、知的財産及び商業裁判所(以下「IPCC」)112年(西暦2023年)度民商訴字第27号民事判決(判決日:2024年2月20日)及びその第2審たるIPCCの113年(西暦2024年)度民商上易字第1号民事判決(判決日:2025年3月5日)は、行為者が実際に販売したことを必要とせず、行為者が実際にOEMメーカーに製造を委託した商品の数に基づいて算定すべきであるとした。
二、本件事案及び判決理由
IPCCの112年(西暦2023年)度民商訴字第27号民事判決及びその第2審たるIPCC の113年(西暦2024年)度民商上易字第1号民事判決は、いずれも同じ見解を示している。両判決は、原告会社の登録商標(以下「係争商標」)は、スナック菓子業界において著名程度に達しており、被告会社及びその責任者は共に食品産業に従事していたことから、原告の登録商標の存在を認識していたはずであり、また、被告会社の登録商標は、原告会社が商標異議申立を行った後に取り消されたものであり、被告の販売する商品のパッケージデザインも係争商標と類似していたことから、被告の行為は、商標法第68条第3号の商標権侵害に該当し、かつ、過失による侵害とした。
本件の原審判決及び上級審判決の主なポイントは以下のとおり。両判決とも、商標法第71条第1項第3号にいう「押収した商標権侵害品」の数は、実際に販売したことを必要とせず、被告会社が実際にOEMメーカーに製造を委託した商品の数、すなわち2万1489箱の商品数に基づいて算出すべきであり、その結果、原告会社は212万7411台湾元(計算式:2万1489箱×99台湾元=212万7411台湾元)の損害賠償を請求できると指摘した。以下の算定方法については、裁判所は採用しなかった。
1.原告は、被告会社のFacebookページに表示された3万箱という販売数量に基づいて算定すべきであると主張した。
これに対し、裁判所は、当該数量は業者が商品が数量限定であり、無制限に供給されるものではないことを消費者に知らせるために設定したものに過ぎず、押収した商標権侵害品数量の算定とは無関係であるとした。
2.被告会社は、実際の仕入れた数は2万箱であり、総販売数量は1万7877箱で、返品不可の商品のため、残りの在庫は期限切れで廃棄されたと主張した。
これに対し、裁判所は、押収した商標権侵害品の数の算定は、行為者が実際に商品を販売していたことを必要とせず、被告会社が実際に製造業者から仕入れた商品の数は、製造業者の商標権侵害品の総数ではないとした。
裁判所はまた、被告会社及びその責任者は過失により商標権を侵害し、押収した商標権侵害品のすべてが市場に流通していたわけではないことから、商標法第71条第2項に基づき事情を斟酌して賠償額を減額し、原審判決は賠償額を75万台湾元に減額するのが相当であるとしたが、二審では、控訴人(すなわち本件原告会社)の請求を一部認め、賠償額を100万台湾元に増額する判決を下した。