ニューズレター
専利侵害訴訟の損害額算定における専利貢献度の概念
テクノロジーの急速な進歩と近代工業技術の発展に伴い、製品の構造と機能はますます複雑化しており、1つの製品に複数の専利(特許、実用新案、意匠を含む)が同時に組み込まれることがある。ある製品に含まれる特定の専利侵害が裁判所に認められ、審理が損害賠償額の算定に進む場合、専利の損害賠償の核心的概念は被害者の損害補填にあるため、専利権者にいかにしてその専利権の貢献(寄与)度に応じた損害賠償を受けさせることができるかが、裁判所の注目するところである。
詳しく言うと、知的財産及び商業裁判所(以下「IPCC」)が、被疑侵害製品が専利侵害に該当すると判断し、その製品が専利侵害部品と非侵害部品の組み合わせで構成される場合、損害賠償をどのように評価・算定するかについて、現在の実務では、「専利の貢献度」という概念が適用されており、すなわち、ある専利権がある製品の価値に対してどの程度貢献するかについては、係争専利技術の当該製品全体に対する有用性の向上、その機能の向上が消費者の購買意欲に重要な役割を果たしているかどうか、市場における一般的な取引状況などの要素を総合的に考慮して、案件ごとに判断されるべきである。
例えば、非専利部品と専利部品が通常一緒に販売され、両者は協働してはじめて所期の効果が得られ、専利部品が製品に及ぼす作用効果が、消費者がその製品を購入する要因である場合、裁判所は、侵害者が製品全体を販売した利益を、権利者が侵害行為によって失った利益として認めている(IPCCの103年(西暦2014年)度民専上字第9号判決、104年(西暦2015年)度民専訴字第62号判決、105年(2016年)度民専上字第27号判決趣旨を参照)。
また、専利部品が製品に及ぼす作用効果が消費者がその製品を購入する要因でない場合、専利権侵害部品を実施した場合と実施していない場合の両者の価格差の割合を専利貢献度の認定の基礎とする判決があり(例えば、IPCCの107年(西暦2018年)度民専上字第27号民事判決)、また、専利侵害部品が製品の機能を向上させる度合い、専利侵害部品が消費者の購買意欲を惹きつける又は高める度合いなどの要素を総合的に考慮し、専利の貢献度を算出する判決もあり(例えば、IPCCの109年(西暦2020年)度民専上字第9号民事判決、109年(西暦2020年)度民専訴字第61号民事判決、110年(西暦2021年)度民専訴字第36号民事判決)、さらに、鑑定機関による鑑定結果に基づいて専利の貢献度を認定する判決もある(例えば、IPCCの109年(2020年)度民専上字第45号民事判決)。これらにより、裁判所は専利の貢献度の認定において、様々な分析方法を採用していることが分かる。
しかし、近時のIPCC 2024年10月17日付112年(西暦2023年)度民専上字第27号民事判決における特許貢献度の評価手法は、「係争専利技術の当該製品全体に対する有用性の向上、その機能の向上が消費者の購買意欲に重要な役割を果たしているかどうか、市場における一般的な取引状況などの要素を総合的に考慮する」という上記裁判所の見解とは異なるようである。
本件係争製品は、携帯用小型急速キャンプストーブである。係争特許は、携帯用小型急速ストーブの構造であり、ベース、ベース内のL字型ライナー、接続チューブ及びガイドチューブを含む燃料コネクタの設計により、ガス燃焼時に2段階の酸素混合を設け、酸素の完全燃焼を促進させるものである。IPCCは審理の結果、係争製品は特許侵害に該当すると判断し、損害賠償額の算定において、特許の貢献度の概念と目的を認め、損害賠償額の算定に特許の貢献度を適用した。裁判所はまた、係争特許の技術がなくても、ストーブ本来の加熱機能は損なわれなかったため、損害賠償額は特許の貢献度に基づいて算定されるべきであるとした。そのうち、2段式酸素混合燃料コネクタを備えたストーブの構造は、ストーブベース、バーナーヘッド、外枠、支柱、燃料コネクタ(ベース、ベース内のL字型ライナー、接続チューブ及びガイドチューブを含む)の5つの主要部品に大別され、上記各部品のストーブに対する技術的貢献度(寄与率)は平均20%と評価された。技術的貢献度が20%の燃料コネクタの下に4つの主要部品(すなわち、ベース、ベース内のL字型ライナー、接続チューブ及びガイドチューブ)があるため、各部品の技術的貢献度はさらに5%と算出できる。係争製品は、燃料コネクタに「ベース内のL字型ライナー」、「接続チューブ」及び「ガイドチューブ」の使用により、2段式酸素混合機能を備えており、この各5%の技術貢献度を占める部品は3つあり、両者を掛け合わせると、係争製品に対する係争特許の貢献度は約15%となるため、これに基づき最終的な損害賠償額を算出した。
本件特許の貢献度の算定において、裁判所は主要部品の総数を調べた上で、各主要部品の特許貢献度を平均的に算出したが、係争専利技術の当該製品全体に対する有用性の向上、その機能の向上が消費者の購買意欲に重要な役割を果たしているかどうか、市場における一般的な取引状況などの要素を考慮しておらず、機械的に各部品の特許貢献度は均等であると判断するにとどまった。このような便宜的なやり方は、確かに審理を加速し、裁判の長期化を避けることができるが、これは論理的に完全であるのか、そして各部品の製品全体に対する効果、消費者に対する影響、取引市場の状況を正確に反映しているかどうかについては疑問が生じる。今後、IPCCがこのような判断を引き続き採用するかどうか、注目に値する。