ホーム >> ニュース、出版物など >> ニューズレター

ニューズレター

搜尋

  • 年度搜尋:
  • 專業領域:
  • 時間區間:
    ~
  • 關鍵字:

「新規性」と「新規性の擬制喪失」との判断基準は同じか―知的財産・商業裁判所2022年度民専上字第19号判決


Randy Liao

特許法第22条第1項の「新規性喪失」と同法第23条の「拡大先願による新規性喪失」は、いずれも新規性の要件に属する。一般に、「新規性喪失」と「拡大先願による新規性喪失」の違いは、大きく2つあると考えられている。第一に、引用例としての従来技術は、両社に違いがあり、前者はいかなる従来技術でもよいが、後者は同じ我が国で出願された出願(以下、「先願」という)に限られる。、。第二に、新規性喪失と拡大先願による新規性喪失の判断に用いられる従来技術文献の公開時期が異なる。詳しく言えば、「新規性喪失」を主張するための従来技術の公開日は、係争特許出願の出願日又は優先日より前でなければならないが、「拡大先願による新規性喪失」を判断するための先願の公開日は、係争特許出願の出願日又は優先日より後であっても、その出願日が係争特許出願の出願日又は優先日より早ければ足りる(ただし、当該技術内容が従来技術の優先権基礎出願において既に開示されている場合には、従来技術の優先日で判断される)。しかし、このような2つの相違点の他にも、実質的に従来技術と対比した場合、その判断基準に違いがあるのだろうか。
 
上記について、智慧財産局(台湾の知的財産権主務官庁。日本の特許庁に相当。以下「智慧局」という)が公表している「特許審査基準(以下、「審査基準」という)」では、肯定的な見解が示されている。特に、同審査基準には、以下のような内容が明確に示されている。「...拡大先願による新規性喪失でいう『内容が同一である』ことについて、その判断基準は、本章2.4『新規性の判断基準』に記載された(1)完全に同一であること、(2)相違点は文言の記載、又は直接的にかつ一義的に導き出せる技術的特徴にのみ存在すること、(3)相違点は対応する技術的特徴の上位、下位概念にのみ存在することに加え、(4)相違点は通常の知識に基づいて直接的に置換できる技術的特徴にのみ存在することも含まれる。上記(4)は、特許出願に係る発明と従来技術との相違点が、一部の技術的特徴にのみ存在し、かつ、それらの技術的特徴が、その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という)が通常の知識に基づいて直接置換できるものであることをいう...」。したがって、審査基準によれば、「拡大先願による新規性喪失」の判断基準には、「新規性喪失」の判断基準よりも、「相違点は通常の知識に基づいて直接的に置換できる技術的特徴にのみ存在する」ということが追加されており、「新規性喪失」の概念が拡大されているように思われる。
 
さらに、審査基準では、「進歩性」の判断について、いくつかの「進歩性を否定する要素」(3.4.1)が挙げられているが、そのうちの1つは「簡単な変更」(3.4.1.2)であり、これは「特許出願に係る発明と単一の引用文献の技術内容との両者の異なる技術的特徴について、当業者が特定の課題を解決する時に、出願時の通常の知識を利用して、単一の引用文献の異なる技術的特徴を単に修飾、置換、省略又は転用することなどにより、特許出願に係る発明を完成できる場合には、その発明は単一の引用文献の技術内容に対する簡単な変更となる」ことを意味する。したがって、審査基準によれば、引用文献の従来技術と係争特許に係る発明との異なる特徴を「簡単に置換」して、係争特許に係る発明を完成できる場合、その発明は進歩性を否定する要素有りと判断できる。しかし、上記「拡大先願による新規性喪失」の基準における「通常の知識に基づいて直接的に置換できる」は、実際には「新規性」の範囲を超え、「進歩性」の範囲に触れるものなのであろうか。実務上、これについては検討があった。
 
知的財産・商業裁判所(以下「IPCC」という)は、2023420日付111年(西暦2022年)度民専上字第19号判決において、「拡大先願による新規性喪失」の立法趣旨、諸外国の立法例、条文内容などの観点から、「拡大先願による新規性喪失」は新規性とは異なる基準で判断されるべきであるとし、審査基準の規定を裏付けた。その意見は以下のとおりである。
 
1.      特許法第23条の「拡大先願による新規性喪失」の改正経緯から、立法者は、先願が後願を排除できる効力及び範囲を拡大し、かつ新規性喪失とは異なる目的及び機能を付与したことが分かる。本条の規定が確かにその独自の法的位置づけ、規制の意味及び機能を有していることは明らかであるため、新規性の概念や実務を全面的に援用して解釈・適用することはできない。しかも、上記規定には新規性の規定にない「ただし、その出願人と先になされた特許出願又は実用新案登録出願の出願人と同一の者であるときは、この限りでない」という文言があるため、その解釈・適用は新規性と一致する必要はない。
 
2.     台湾特許法第23条の規定と比較的近い日本法及び韓国法では、いずれも「拡大新規性」の原則を採用している。後願に係る発明が先願の明細書などに十分に開示されていない場合であっても、後願は特許を取得できない可能性がある。例えば、先願発明と後願発明との間に相違点があっても、その相違点が技術分野における通常の知識を用いて直接知り得る程度の微差である場合、又は当業者がその一般知識及び通常の技能を用いて知り得る程度の微差である場合には、後願発明は特許を受けることができないとも判断できる。
 
3.      特許法第23条には、「特許出願に係る発明が、その出願より先に出願され、かつ、その出願後はじめて公開若しくは公告された特許出願又は実用新案登録出願に添付された明細書、特許請求(実用新案登録請求)の範囲、図面に記載された『内容が同一である』場合、特許を受けることができない」と規定されている。したがって、先願と後願との対比は、文言上の完全一致に限定されるものではなく、形式上の違いがあっても、実質的に同一であれば、やはり上記規定におけるいわゆる内容が同一であることに属する。これにより、台湾の特許審査基準は、特許法第23条の「内容が同一である」ことの判断基準の一つとして、「相違点は通常の知識に基づいて直接的に置換できる技術的特徴にのみ存在する」ことが挙げられている。それは、新規性要件の判断範囲を超えるものではなく、「直接置換」の概念もまた、進歩性要件における「当業者が従来技術に基づいて容易に完成できる」という概念とは大きく異なる。したがって、控訴人が主張するように、新規性の判断に進歩性の概念が不当に導入されたという懸念はない。
 

本判決は、「拡大先願による新規性喪失」の実質的判断基準は新規性とは異なり、進歩性判断の範囲には含まれないことを確認したものである。しかし、実際の運用においては、審査基準における「直接置換」(「拡大先願による新規性喪失」の概念に属するもの)と「簡単な置換」(「進歩性」の概念に属するもの)を区別するために、引き続き事例から智慧局とIPCCの見解を蓄積する必要がある。

回上一頁