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最高行政裁判所大法廷の統一見解:著名商標・標章の識別性又は信用名声の毀損に関する商標法上の著名商標とは、関連事業者又は消費者に普遍的に認知されている商標をいう



一、主要争点及び最高行政裁判所大法廷の統一見解の決定:
 
商標法第30条第1項第11号には、不登録事由として「他人の著名商標又は標章と同一又は類似、関連公衆に誤認混同を生じさせるおそれがあるもの、又は著名商標又は標章の識別性又は信用名声損なうおそれがあるもの。ただし、当該商標又は標章の所有者の同意を得て登録出願するときはこの限りでない。」と規定している。同号後段にいう著名商標は、その著名程度が関連消費者のみならず一般消費者に普遍的に認知される程度に達することが必要であると解釈すべきなのか。それとも、関連事業者又は消費者に普遍的に認知されているだけで十分なのか。これについて、実務見解は分かれているところである。
 
最高行政裁判所大法廷は、2023317日付の111年度大字第1号決定において、以下のような見解を示した。商標法第30条第1項第11号後段にいう「著名商標」とは、関連事業者又は消費者に普遍的に認知されていると認めるのに十分な客観的証拠を有するものをいい、一般消費者に普遍的に認知される程度に達する必要はない。
 
二、主な根拠条文:
 
商標法第30条第1項第11号には、不登録事由として「他人の著名商標又は標章と同一又は類似、関連公衆に誤認混同を生じさせるおそれがあるもの、又は著名商標又は標章の識別性又は信用名声損なうおそれがあるもの。ただし、当該商標又は標章の所有者の同意を得て登録出願するときはこの限りでない。」と規定している。
 
行政裁判所組織法第15条の1、第15条の21項、第15条の10は、それぞれ「最高行政裁判所には、法律上の争訟を裁判するために大法廷を設ける。」「最高行政裁判所の各法廷審理した事件において評議を経た後に判決の基礎として採用された法的見解これまでの裁判で示された法的見解と一致しない場合、決定でその理由を述べ大法廷に提案し、その審理に委ねるものとする。」「大法廷の決定は、提案法廷から提出された事件に対し拘束力を持つ。」と規定している。
 
三、事案の概要
 
イタリアのファッションブランド、ヴァレンティノスパ社(Valentino S.p.A.)は、登録第1920292号の商標「GIOVANNI VALENTINO」が同社所有の登録商標「VALENTINOと類似を構成し、商標法第30条第1項第10号及び第11号に違反するとして、係争商標に対して異議を申し立てた。智慧財産局(台湾の知的財産権主務官庁。日本の特許庁に相当)は審査した結果、「異議不成立」処分を下した。同社はこれを不服として、順次訴願及び行政訴訟を提出したが、その後、知的財産裁判所(202171より知的財産・商業裁判所に名称変更)は、109年度行商訴字第55号行政判決で行政訴訟を棄却した。同社はこれを不服として、最高行政裁判所上告した。
 
本件行政訴訟を審理する最高行政裁判所の合議体は、商標法第30条第1項第11号後段の適用に関する法律問題について、評議を経た後に判決の基礎として採用しようとする法的見解これまでの最高行政裁判所の判断(106年度判字第607号、第608号、第609号、107年度判字第446号、109年度上字第982号判決一致せずその他の各法廷の意見を聴取したところ、なお見解に相違があるため、行政裁判所組織法第15条の2条の規定に基づき、最高行政裁判所111年(西暦2022年)度徴字第2号決定をもって、最高行政裁判所大法廷提案し、その審理に委ねることとした
 
最高行政裁判所大法廷(111(西暦2022年)度大字第1)は、本件の争点について20221118日に準備手続を行い、2023217日に裁判官9人で審理し、口頭弁論を行った後、同年317日に決定を言い渡した。同日、同裁判所は大法廷の統一見解の決定のプレスリリースを公表した。
 
四、最高行政裁判所大法廷決定理由の要約:
 
1. 商標法施行細則第31条では、商標法にいう著名商標とは、関連事業者又は消費者に普遍的に認知されていると認めるのに十分な客観的証拠を有するものをいうことを明らかに定めており、商標法第30条第1項第11号前段、後段にいう著名商標についてそれぞれ異なる定義を設けてはいない。また、『商標法第30条第1項第11号における著名商標保護に関する審査基準』3.2の規定により、商標法第30条第1項第11後段が適用されるためには、その著名商標の著名程度が関連消費者のみならず一般消費者に普遍的に認知される程度に達することが必要である解釈すべきであるという要件も存在しない。
 
2. 商標法は2003年に著名商標の毀損を規定する第23条(すなわち現行法第30条)を新設した。商標法にこの規定を新設する行政院(内閣に相当)の提案説明により、登録できない規定が適用されるためには、著名商標又は標章の識別性又は信用名声損なうおそれがある場合の商標の著名程度を、一般消費者に普遍的に認知される程度まで引き上げなければならないという趣旨はない。また、商標法第30条第1項第11号前段にいう「他人の著名商標又は標章と同一又は類似のもの」もまた後段に規定する著名商標の毀損の成立要件であり、当該提案説明に示された著名商標に対する認定は、一般公衆の認知ではなく、商品又は役務の関連公衆の認知を考慮して判断しなければならない。以上のことから、著名商標に対する混同誤認に限らず、著名商標の毀損も含まなければならないことが明らかである。よって、著名商標又は標章の識別性又は信用名声損なうおそれがある場合には、著名商標の認定については、当該提案説明の趣旨に合致するため、一般公衆の認知ではなく、商品又は役務の関連公衆の認知を考慮して判断しなければならない。
 
3. 19999月にWIPO発表した「著名商標の保護規則に関する共同勧告(Joint Recommendation Concerning Provisions on the Protection of Well-Known Marks)」第2条は、加盟国における著名商標の決定(Determination of Whether a Mark is a Well-Known Mark in a Member State……[要求されない要因] (a)商標が著名商標かどうかの判断条件として、加盟国は以下を要求してはならない。…… (iii)当該商標が当該加盟国の一般公衆に普遍的に認知されていること((3)[Factors Which Shall Not  Be Required] (a) A Member State shall not require, as a condition for determining whether a mark is a well-known mark:……(iii) that the mark is well known by the public at large in the Member State.)と規定している。また、当該共同勧告第4 (1) (ii)は、商標の使用は、著名商標の識別的特徴を損なう又は希釈化(ダイリューション)する不当な方法で行われる場合があり、加盟国は、当該著名商標が一般公衆に普遍的に認知されていることを要求することができる(for the purpose of applying paragraph (1)(b)(ii) and (iii), a Member State may require that the  well-known mark be well known by the public at large.)と規定している。したがって、19999月にWIPOが発表した「著名商標の保護規則に関する共同勧告」によれば、著名商標の毀損又は希釈化について、その著名程度が一般公衆の普遍的な認知度に達するを要求するかどうかは加盟国の判断に委ねられている。また、台湾商標法では、2003年に著名商標の毀損規定が新設され、前述の行政院の提案説明及び商標法施行規則第31条の規定「本法にいう著名とは、関連事業者又は消費者に普遍的に認知されていると認めるのに十分な客観的証拠を有するものをいう。」により、いずれも商標法第30条第1項第11号後段にいう著名商標は、同規定が適用されるため、一般消費者に普遍的に認知される程度に著名でなければならないことを要求していない。
 
4. 肯定説は、商標法施行細則第31条の「著名」に対する定義規定を法目的に照らして、商標法第30条第1項第11号後段にいう「著名商標」に適用されないと狭く解釈したものである。しかし、この合目的性の縮小解釈の法解釈方法によれば、せいぜい、商標法施行細則第31条の「著名」に対する定義規定が、商標法第30条第1項第11号後段にいう「著名商標.」には適用されないと解するほかなく、商標法第30条第1項第11号後段にいう著名商標が、同規定が適用されるために、一般消費者に普遍的に認知される程度に著名でなければならないという結論にはまだならないだろう
 
5. 商標法第70条第2号は、「商標権者の同意を得ずに、次の各号のいずれかに該当する場合、商標権侵害とみなす。...... (2)他人の著名な登録商標であることを知りながら、当該著名商標にある文字を、自社、商号、団体、ドメインネーム又はその他の営業主体を表彰する名称として、関連消費者に誤認混同を生じさせるおそれがある、又は当該商標の識別性若しくは信用名声を損なうおそれがあるもの。」と規定している。著名商標の使用を商標権侵害とみなす場合には、著名商標にある文字を、自社、商号、団体、ドメインネーム又はその他の営業主体を表彰する名称として使用し、関連消費者に誤認混同を生じさせるおそれがある、又は当該商標の識別性若しくは信用名声を損なうおそれがある場合を含む。上記の商標権侵害とみなす態様は、いずれも著名商標の同一用語を共通に使用していることからも、商標法において民事事件が商標権侵害とみなされる場合には、関連消費者に誤認混同を生じさせるおそれがある、又は著名商標の識別性若しくは信用名声を損なうおそれがあることについて、著名商標の意味個別に定義する立法趣旨がないことがわかる。よって、著名商標に係る民事上の商標権侵害が、関連消費者に誤認混同を生じさせるおそれがある場合、又は著名商標の識別性若しくは信用名声を損なうおそれがある場合を含め、当該著名商標に係るものとは、自ずと関連事業者又は消費者に普遍的に認知されていると認めるのに十分な客観的証拠を有するものをいう。肯定説は、商標法施行規則第31条の「著名」の定義規定を、法目的に照らして狭く解釈すべきであり、同号項後段にいう「著名商標」には適用されないという見解を採ったものである。これは、上記民事事件において、著名商標の意味個別に定義しないとする商標法第70条第2号の規定と明らかに矛盾するものである。
 
6. 商標法第30条第1項第11号後段にいう「著名商標」と商標法におけるその他の規定にいう「著名商標」の用語について、同じ用語が同じ意味合いを持つ法理に基づき、いずれも同一の定義を採用する。商標法第30条第1項第11号後段の商標の毀損防止に関する規定について、商標の著名程度に対する要求が同号前段の規定よりも高いということは、著名商標の識別性又は信用名声の毀損のおそれの有無という要件の該当性を判断するときに、『商標法第30条第1項第11号における著名商標保護に関する審査基準』3.3「商標の識別性又は信用名声の毀損のおそれの有無を判断するための参酌要素」の中の「商標の著名の程度」を審査上区別し、商標法第30条第1項第11号後段の「著名商標」の要件を審査上区別するものではないことを意味している。また、著名商標の商標権者への過保護を避けるために、関連事業者又は消費者に普遍的に認知されている著名商標というだけで、「商標の識別性又は信用名声を毀損るおそれがある」との要件に該当すると判断できるわけでもない
 
7. 結論:商標法第30条第1項第11号後段にいう「著名商標」とは、関連事業者又は消費者に普遍的に認知されていると認めるのに十分な客観的証拠を有するものをいい、同号後段が適用されるためには、一般消費者の普遍的な認知度に達する必要はない。著名商標の識別性又は信用名声の毀損のおそれの有無については、商標の著名の程度、商標の類似の程度、商標がその他の商品・役務に普遍的に使用される程度、著名商標の先天的又は後天的な識別性の程度及び係争商標の権利者が他人にその商標と著名商標を連想させる意図があるか否かなどの要素を参酌して総合的に判断しなければならない。
 
五、最高行政裁判所大法廷の統一見解の決定の影響:
 
最高行政裁判所は、201611月の第1回庭長(法廷の長)・裁判官合同会議において、商標法第30条第1項第11号後段が適用されるために、それにいう著名商標は、関連消費者のみに限定される同号前段とは異なり、関連消費者のみならず一般消費者に普遍的に認知される程度に達することが必要である解釈すべきことを決議した。
 
行政裁判所組織法第15条の10の規定により、最高行政裁判所大法廷の決定は、提案法廷から提出された事件に対し拘束力を持つ。また、同じ法律上の争訟を持つ他の事件に対しても、実質的拘束力が発生し、大きな影響を及ぼすことは間違いない。
 
今回の最高行政裁判所大法廷の決定は、上記庭長・裁判官合同会議の見解を覆し、関連消費者に認知されているが一般消費に認知される程度にはまだ達していない商標について、商標法第30条第1項第11号後段の適用を認め、商標の識別性や信用名声の希釈化のリスクを軽減することができるものである。
 

それにもかかわらず、今回の最高行政裁判所大法廷決定後も、著名商標の識別性又は信用名声の毀損のおそれの有無については、やはり『商標法第30条第1項第11号における著名商標保護に関する審査基準』3.3の各参酌要素に基づき総合的に判断しなければならない。すなわち、商標の著名の程度、商標の類似の程度、商標がその他の商品・役務に普遍的に使用される程度、著名商標の先天的又は後天的な識別性の程度及び係争商標の権利者が他人にその商標と著名商標を連想させる意図があるか否かなどの要素を含む。 

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